考えてみれば、人類が石器時代を生き延び、ここまでたどり着いたのは奇跡のようなものです。食べ物や寝床、暖を見つけなければならず、ときには同じものを求める動物の脅威と戦うこともありました。素手でトラと戦って生き残るには、どうすればいいのでしょう。もちろん私たちには知恵も器用な手先もありましたが、それでも大変なことです。
実は、私たちの体にはまさにこうした場面のための特別なモードが備わっています。ストレスが一気に高まり、「闘争か逃走か」と呼ばれる仕組みが働き出します。急に頭が冴え、集中力が研ぎ澄まされ、脳も体もすべてがその一つの脅威に向かっているかのようになります。
時代は変わって現代。今ではこの同じ仕組みが、私たち自身に牙をむいているのかもしれません。日常生活のストレスとの付き合い方を、もう少し掘り下げてみましょう。
ストレスは短距離走
多くの意味で、私たちは冒頭のような時代から遠く離れた恵まれた世代です。代わりに向き合うのは、間に合いそうにない締め切り、駅で止まったまま動かない電車、雨の中で傘を持ちながら自転車をこぐことといった脅威です。日常のほとんどの場面はトラとの戦いとは程遠いのに、それでも私たちはストレスを感じます。呼吸は浅くなり、お腹のあたりがそわそわして、頭が重くなります。やらなければいけないとわかっているからです。
こうした瞬間、体はまず素早くアドレナリンを出し、プレッシャーが続けばその後にコルチゾールが続きます。この二つが、いちばん必要なときに集中力とエネルギーをくれます。これは良いことです。目標を達成して、また日常に戻っていけます。
ところが世の中のスピードが上がるにつれて、この反応が起きる回数も増えてきました。メールが一通届くたび、仕事のタスクが一つ増えるたび、子どもの保育園の送り迎え。そんなありふれた日常の場面が、心の中の競争を始めてしまうのです。ストレスは短距離走のように働きます。物事をやり遂げるにはとても役に立ちますが、一日中走り続けるようにはできていません。

人生はマラソン
私たちの毎日は 400 メートル走ではありません。マラソンです。毎日きちんと顔を出し、やるべきことをこなし、誰かの足を引っ張らない程度の成果を出すことを求められます。そしてまた同じことの繰り返し。その合間に、できれば幸せな瞬間も味わいますが、次の山はいつも待ち構えています。
この 20 年で大きく増えたストレスのきっかけをいくつか挙げてみます。
- 一日が終わっても、仕事がオフィスに置いていけなくなった。リモートワークで、いつでも仕事の環境にアクセスできる
- ニュースがさまざまな情報源から、すぐに届くようになった。一日一回、新聞で読むだけではなくなった
- SNS で、他人の生活を一日中目にするようになった。しかもその多くは、フィルターのかかった現実だ
- 請求書がデジタルで、いつでもどこにでも届くようになった。休暇中でもスマホに届く
- 学生は試験の結果を、週末でもいつでもスマホで受け取るようになった。親と映画を観ている夜でさえも
20 年前は、ストレスのきっかけの多くにまだ決まった時間と場所があり、しばらく身を隠すこともできました。いわば、充電の時間です。それらをどれくらいの頻度で受け入れるかも大切です。ある研究では、メールを確認するのを 1 日 3 回に絞った週のほうが、好きなだけ確認した週よりも日々のストレスが少なかったという結果が出ています。
では、人生がマラソンなら、ストレスを振り切るにはどうすればいいのでしょう。正直なところ、振り切ることはできません。せめてときどき茂みに身を隠す方法を、いくつか見ていきましょう。
日々のストレスが心身をすり減らす理由
まずは、絶え間ないストレスを当たり前だと思わないことから始まります。心理学では、プレッシャーとパフォーマンスの関係を逆 U 字型で表すことがよくあります。ヤーキーズ・ドッドソンの法則として知られるものです。少しのプレッシャーは頭を冴えさせます。けれどもある点を超えると、プレッシャーが増えるほど、まさにストレスを感じているその作業の出来が悪くなっていきます。
体も代償を払います。短いストレスは、免疫システムの一部を一時的に活発にします。一方で、何週間も何か月も続くストレスは逆の働きをします。30 年分の研究をまとめた分析では、慢性的なストレスが幅広い面での免疫機能の低下と結びついていることがわかりました。ストレス反応がずっとオンのままだと、心臓や睡眠、気分にも負担がかかります。
そして、ここに落とし穴があります。ストレスはうまく働くので、毎回報われたように感じてしまいます。締め切りに間に合って、「ほら、できた」と自分に言い聞かせる。ストレスにごほうびを与えると、次はもう少し早くやって来ます。やがて日常のあらゆる場面が、ゴールへの全力疾走になってしまいます。それではマラソンは走れません。
ストレスも必要。ただし、ときどきでいい
充実した人生には、ある程度のストレスもつきものです。ときには、それもあっていいのです。でもそれ以上に、あなたには日差しや楽しい仲間、前向きな気持ち、感謝、創造性がふさわしいのです。では、どうすればそこにたどり着けるでしょうか。
1. ストレスを感じたときを記録する
ストレスを感じたら、そのたびにきっかけと一緒に書き留めてみましょう。日記やムードトラッカーに「ストレス、締め切り」と書くだけでも十分です。あるいは「ストレス、デジタルの請求書を見落として延滞金がかかる」。気持ちを言葉にするだけで、その鋭さが少し和らぎます。研究者はこれを感情のラベリングと呼んでいます。数週間続ければ、何度も繰り返されるきっかけが見えてきます。
今ストレスを抱えておけば後でゆっくりできる、という考えにだまされないでください。それは思考のわなです。
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2. 四角く呼吸する
ストレスがどのくらいの頻度で現れるかがわかったら、次は回復に取り組みましょう。ストレスを和らげる方法は、瞑想やボックス呼吸などたくさんあります。ボックス呼吸はアメリカ海軍の特殊部隊ネイビーシールズによって広まったもので、会議中でも動かない電車の中でも、どこでもできるのが魅力です。
やり方はこうです。一回の呼吸を 4 秒ずつ、4 つに分けます。
- 4 秒かけて息を吸う
- 4 秒止める
- 4 秒かけて息を吐く
- 4 秒止める
ストレスを体で感じたら、これを 10 回繰り返しましょう。スタンフォード大学の研究では、1 日 5 分の呼吸法を 1 か月続けた人たちは、前向きな気分が増え、安静時の呼吸がゆっくりになりました。ボックス呼吸も、そこで試された方法の一つです。
3. 自分のマラソンペースを見つける
こうした方法は、その場ではとても役立ちます。長い目で見れば、あなたを支えてくれるのは考え方の変化です。自分の人生を、何頭ものトラとの戦いだと考えるのはやめましょう。マラソンだと考えるのです。ときどきはスパートをかけて、時計に勝ってもかまいません。そのあとは、いつもの巡航ペースに戻ります。ランナーなら「ゾーン 2」と呼ぶペースです。この言葉を覚える必要はありません。ゾーン 2 では、走りながらでも楽に会話ができる、ということだけ知っておいてください。
世界保健機関(WHO)のアドバイスも同じ方向を向いています。毎日のリズムを保つ、睡眠を大切にする、毎日体を動かす、信頼できる人とつながりを保つ、ニュースに触れる量を減らす。どれも派手なことではありません。それこそが大事なのです。無理なく続けられるペースなのですから。

マラソンのように生きる人生とは、まさにこういうものです。軽やかで、ほとんどの時間は楽しい。あなたにはそれがふさわしいのです。
ストレスの奥にあるものを探ってみたいなら、ストレスについてのジャーナルプロンプトから始めるのがおすすめです。不安を減らして生きるための記事もあわせてどうぞ。
ストレスが何週間も続いたり、睡眠や仕事、人間関係に影響し始めたりしたら、医師や心の健康の専門家に相談してください。
出典(7件)
- Stress
- Understanding the stress response
- Psychological Stress and the Human Immune System: A Meta-Analytic Study of 30 Years of Inquiry
- Arousal and performance: revisiting the famous inverted-U-shaped curve
- Checking email less frequently reduces stress
- Putting Feelings Into Words: Affect Labeling Disrupts Amygdala Activity in Response to Affective Stimuli
- Brief structured respiration practices enhance mood and reduce physiological arousal
出典は英語です。

